2012年4月8日日曜日

特集「コーラの缶の歴史」


中本晋輔

コーラの容器というのは、食品パッケージの中でもかなり難易度が高い。炭酸を含んだ酸性の液体を長期間漏れなく保存し、なおかつ簡単に開封できなければならないという矛盾した要求があるからだ。しかしベンジャミン・F・トーマスがコカ・コーラのボトリング権を$1で獲得して以来、人はコーラを気軽に飲めるようにするためその容器に知恵を絞ってきた。

今回はそのパッケージの中でも最も成功した例である「缶」の歴史について考えてみる。

 

金属容器への挑戦

食品容器の歴史の中で金属容器は樹脂に次いで新しく、商業生産の開始から2世紀を経るのみである。当時はイギリス海軍向けの保存食であったがその後100年で様々な加工技術が確立され、20世紀の初頭にはスープや固形物のパッケージとして一般にも普及していた。

炭酸飲料容器の金属化に真っ先に取り組んだのは、アメリカのビール会社であったとされる。彼らは1900年代初頭よりビール缶の開発をAmerican Can Companyに依頼してる。しかし禁酒法や技術的な問題などから実際に市場に投入されるまでに30年の月日を要した。

1930年代中頃には、炭酸飲料用の缶として2つのフォーマットが確立された。フラットトップ(Flat Top)とコーントップ(Cone Top)である。


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フラットトップは呼んで字の如く、上蓋が平ら(Flat)な缶である。金属の板で密封しているだけの、最も単純な缶形状である。缶切りであける昔の缶詰を想像して頂きたい。

このタイプには開封用に金属製の冶具が付属していて、それを上蓋の淵に引っ掛けてテコの原理で穴をあける。注ぎ穴の対角に空気穴を開けてコップに注ぐのが一般的で、開封済みのフラットトップの殆どにドラキュラの噛み跡のような2つの穴があいている。

ちなみにOpenerとよばれるこの冶具には各社のロゴがプリントされた物が多く、現在ではコレクションアイテムになっている。

これに対しコーントップは缶の上蓋部が先端を切り落とした円錐(コーン)型をしたものだ。面白いのは王冠(クラウン)でシールされている点で、開封には栓抜きを使う。コーンの高さや製法によってHigh profileやLow Profileなど、複数のバージョンが存在する。

コーントップはまさに「ガラス瓶をそのまま金属にした」容器で、上に穴を開けるフラットトップに比べて開封しやすいメリットがある。また円錐型のシルエットが優雅で、パッケージの訴求力はライバルの追従を許さない。

ただしコーントップは生産に高い技術力が要求さるため、コストが割高であったり品質管理が難しいといった弱点があった。残念ながら日本で生産された記録はない。


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なお一部で日本のボトル缶(後述)がコーントップと呼ばれることがあるが、ここでは別のものとして扱う。

1960年代までの四半世紀は、この2つのフォーマットが火花を散らした時代であった。

最初期の缶コーラ

世界初の缶入り炭酸飲料はアメリカのビール会社から発売された。1935年、Krueger社はフラットトップを採用した"Krueger's Ale"、"Kruger's Beer"を投入し、一躍大ヒット商品となった。しかし清涼飲料業界はすぐにはこれに続かず、しばらくボトルに固執する。

コーラの缶が記録にはじめて登場するのは1938年。コカ・コーラ社が試験的にLow Profileのコーントップで作ったものが初めといわれている。ただしこの缶は市場には流通しなかった為、現存数が極めて少なく不明な部分が多い。またペプシもこの頃金属容器を試作していたと言われているが、販売はされなかった。

この缶容器の流れは第二次世界大戦によって一旦途切れる。原料の多くが配給性となり、軍需品として認められたコカ・コーラ以外のメーカーはコーラの生産すらままならない状況に置かれてしまったのだ。政府の後押しを受けたコカ・コーラもいかに戦線に供給するかに追われ、容器の開発は進展を見せなかった。


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戦後、缶コーラ生産の口火を切ったのはペプシであった。戦争でコカ・コーラに大きく水を開けられた彼らはインパクトのあるコーントップを採用、ペプシのロゴを全面にあしらった美しい缶でシェアの挽回を狙った。

ダブルドットのペプシロゴと王冠を配した美しいコーントップ缶が市場に現れたのは1948年。その後51年まで合計3バージョンが生産された。これに続いてDouble ColaやC&C Colaなどがコーントップ缶を相次いで発売したが、当のペプシは容器の破裂やスタックの問題に悩まされ数年後に生産を終了している。

コーントップに遅れること6年、世界初のフラットトップ缶コーラがRoyal Crown社より発売された(註1)当時業界3位だった同社は保守的なコカ・コーラや前述の失敗の傷の癒えないペプシを尻目に缶路線を拡大、1960年頃にはアメリカで最大の缶入り清涼飲料メーカーとなった。

ちなみに日本初の缶コーラもRoyal Crownで、1961年4月より壽屋(後にサントリー)が「ローヤルクラウンコーラ」として販売を開始。192ml入りのフラットトップ缶が40円であった。加山雄三・星由里子を起用した広告には「すぐ冷えます かさばりません 軽くて携帯に便利です」とその利便性が述べられている。[写真]


1955年には、「缶に入れたらコカ・コーラじゃなくなる」と頑なに市場投入を拒んできたコカ・コーラが、ついに缶入りの生産を開始。しかしこの1st Canは輸出専用の言わば「例外」品で、国内市場に缶が出回るのは59年まで待たねばならなかった。この辺のフットワークの鈍さがいかにもコカ・コーラらしい。

初期に人気のあったコーントップは、その技術的な難しさから50年代後半には姿を消した。しかし技術革新の波は、フラットトップが長く勝者でいることを許さなかった。

 

→II イージーオープンの時代

→III リシーラブルと新フォーマットへ

 

(註1) 彼らはコーントップを缶と認めていないようで、「RCが世界で初めて缶コーラを発売した」と主張している。



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